人気の途絶えた放課後の教室は代赭色の風情がある。
 音楽室からだろうか。細く流れてくるピアノの旋律は、春の風に色彩をつける。土方十四郎は頬杖を突いて、窓の外、運動部が駆け回る校庭を感慨深く眺めていた。真新しい制服はまだ身体に馴染まず、少しゆとりがあって、袖がとっても気になる。不意に淡黄色のカーテンが揺らいだ。土方は恋をしていた。くすぐられるような気持ちを持て余し、机に突っ伏す。顎を一寸上げて黒板に視線を向ければ、中央に白いチョークで書かれている担任の名前に引き寄せられる。前歯で下唇を噛み締め、瞼をグッと閉じる。外から吹き込んできた春の風が土方の前髪を柔らかく撫でた。
「おい」と声をかけられて、慌てて振り返ると、おそらく学年の教師だろう、年配の男が立っていた。
「まだ新入生は部活もないだろ、早く帰れ」
 土方は慌てて立ち上がり軽く頭を下げて、教室を出た。木目の床は足音を殊更響かせる。室内履きは、古びた床との対比でそこだけ妙に白く浮いていた。高校に進学した。実家からは新幹線で二時間以上もかかる高校に。行きたい大学の近道になると、生まれて初めて嘘をついた。両親を何日もかけて説き伏せて、やっとの思いで了承を得た。一人暮らしをすることになった。これから帰るのは築三十年の木造二階建てのおんぼろアパート。昇降口から出ると、浮き上がる風に遭った。校門に脇には桜の木が並立している。校舎を振り返る。均等に並ぶガラス窓を見上げ、土方は淡い吐息を漏らした。

 初めて目にしたのは小学生の時だった。小中一貫校に通うことになった土方は、入学式後、桜舞う校庭でぼんやりしていた。母親は幼馴染である近藤勇の母親と立ち話をしていたので、会話が終わるのを傍らで待っていた。手持ち無沙汰の土方の目の前に、桜の木の影から蝶が躍り出た。翅の裏が銀白色に輝く珍しい蝶だった。酔ったように舞っていた。そして、その時、校門の向こうから駆け込んできた。紺色の剣道着を身に纏っていたから、否が応でも目に飛び込んだ。右手に竹刀、左手に面を持って走っていた。どうしてか、眼が離せなかった。土方があまりにも注視していたので、向こうも気がついたのだろう、頬を持ち上げるように土方に向けて微笑った、すれ違いざま、竹刀を持つ手で頭を軽く撫でられた。そのまま、後ろ姿を眼で追っていると、蝶が剣道着を追いかけた。土方の脇をひらひらと通り過ぎていった。土方は何故か、この光景をずっと自分は覚えているのだろうと漠然と理解した。一分にも満たないその出来事は強烈な印象を土方に残した。
 土方に強烈な印象を与えた男は中学三年生だった。学校では校舎が違うから接点は殆どなかったが、剣道の練習稽古の場所は同じだったので、たまに姿を目にした。他の部員とは格が違った。流れるような身のこなしに、あっという間の一撃は凄まじかった。相手と対峙をした時に勝負は既についているようなものだった。纏う空気感が違った。誰の目から見ても明らかなほど一流だった。
 土方は一度だけ男から言葉をかけられた。小学生と中学生では、というよりも、土方が気にしていた男は、最早、部活の指導者風情では手に負えなかったので、市内にある有名な剣術道場に通っていた。たまに気紛れのように練習場に顔を出しては、後輩や同級生に稽古をつけるくらいだった。男は土方の素振りを見て「春疾風みたいだな」と言った。それ以来、土方にとって春は特別な季節になった。男は有名だったから、情報は探せば簡単に入ってきた。高校教師になったと聞いて、土方は春に引き寄せられる植物や昆虫のように、自分の進路を決めた。

 高校の一年はあっという間に過ぎ去った。
 土方は夕方、自転車を漕いでいた。トレーナーにジーパン姿で二つ隣の駅まで走らせ、息を弾ませていた。傾いだ煙突から灰色の煙がもくもくと出ている銭湯の脇に自転車を停め、周囲をキョロキョロと見回す。そんな必要なんてどこにもないのに車輪を点検し始めた。暫らく経って、後ろから「あれ」と声がする。
 土方はなんでもない顔で振り返り「あ、先生」と偶然を装った。
「自転車どうかした?」
「いえ、なんか車輪が外れた気がしたんですけど、気のせいでした」
 それ以上突っ込まれないように、自転車の前カゴから桶を取り出し、さっさと暖簾を潜ろうと促す。勘付かれているかもしれないが、それでも良かった。担任は土方の分の湯銭をも払ってくれる。こうして、並んで番台を過ぎて裸になって風呂に浸かる。週に一度、土方にとってかけがえない時間だった。男は中学の頃とは顔も体型も変わってずっと大人びた。真剣にやっていた剣道も最近では体慣らし程度になってしまったみたいだ。それでも、土方は坂田銀八が好きだった。
 銀八は湯に浸かった途端、腹の底からの吐息を憚ることなく漏らす。まだ二十代のくせにおっさんくさくて笑えた。それでもやっぱり大好きだった。頭に畳んだタオルを乗っけて、天井を仰いだので、土方もすかさず真似をする。
「あー温けぇ、春とはいえ、まだ夜は冷えるよな」
「はい」
「そういやさ、知ってる? 土方くん。最近さ、電気ボイラー使ってる銭湯が増えて、煙突がなくなってきてるんだって」
「へえ」
「銭湯と煙突って、これもう表裏一体をなしてるっていうか、相即不離だろ。煙突のない銭湯なんてさ、情緒がないよな」
 なんでもさ、コンパクトにしちまうって風潮って、これどうよ、と瞬間憤慨した銀八に土方は微笑う。
「確かに、銭湯に煙突無くなったら味気ないですよね」
「そうだよ。あ、知ってる? 銭湯の煙突の高さって、全国一律なんだって」
「へえ」
「こういうさ、なんでもない発見ってなんかいいよなぁ。隠された真実って感じで」
 銀八は、以前土方に会った事に気がついていないようだった。それもそうだろう。土方は、小学一年生だったのだ。しかも、まともに目を合わせたのは両手で数える程度だ。覚えられて無くても土方は構わなかった。あの時はとても遠かった距離が今はすごく近い。湯音が反響する江戸っ子好みの湯の中で「そうそくふり」と頭の中で繰り返す。現国の教諭になった銀八は、会話の中に難しい言葉を混ぜてくる。前後の内容から意味はだいた掴めるが、帰ったら辞書を引いて調べたい。二年生に進級しても、銀八は土方の担任だった。校内ではあまり話をしないが、銭湯では雑談をするようになれた。去年の一年で掴んだかけがえのない接点だ。
 未婚で彼女がいないことも、ここから五分も離れていないアパートに住んでいることも知っている。行きつけの本屋も、飲み屋も、血液型、誕生日、趣味、好物。少しずつ時間をかけて銀八という男を知っていった。知れば知るほど、銀八が好きになった。壁一面の壮大な富士山の絵には桜の木も描かれている。ここにも春を見つけた。壁画に向かって拝みたい気持ちにもなる。これから銀八とどういった関係になりたいか望みもあるにはあるが、そこはまだ未知数で、だから土方はこうして銀八と湯を共にできるだけで今はよかった。

 二年目もあっという間に終わった。
 三年に進学しても、担任は銀八だった。三度目の春である。想いは愈高まっていた。窓の外から降り注ぐ陽脚に三年分成長した土方は本を閉じて眼を細める。校庭の向こう、裏門の脇に堂々とした風格を漂わせている桜、その枝のたわわな花は去年よりも色が濃かった。放課後の人気のない教室は一年の時に感じた代赭色の感はない。馴染んだ小道具然としたものに変化していた。
 去年、銀八を思い浮かべてマスターベーションをする事を覚えた。夢精も経験した。相即不離、という言葉はだいぶ前に調べた。意味は関係が非常に密接で切り離せないこと。ならば、今の自分と銀八は不即不離なのかもしれない。生徒と教師の間柄から少しも逸脱していない。土方は銀八が授業中に紹介した「春琴抄」という本を手にし、立ち上がる。栞はだいぶ後ろのページに挟まっていた。
 春が好きだ。春は銀八に会えた季節で、再会できた季節でもある。春が銀八を引き合わせてくれた。だから土方は春に特別な思いを抱いている。銀八と来年の春も一緒にいたい。
 窓の外、校庭を眺めていた土方は、唐突に、視界に入った人物を見つけて立ち上がった。校庭の明るい陽の光の下を銀八が歩いていた。裏門の桜の木に向かっている。剣道をやってきた者が持つ特有の摺足で進んでいく。運動部の生徒に声をかけられては片手を上げて応じながら、桜の木の下で止まり、顔を見上げた。こちらからはその表情が見えなかった。だが、土方は銀八がどういった顔をしているのか手に取るように分かった。土方は両掌をガラスに貼り付けて、じっと瞶める。そして思い出す。翅の裏が銀色の蝶の名前は裏銀小灰蝶。記憶が回顧する。中学生の銀時が、頭に触れた手の感触、片頬を持ち上げた微笑み、剣道着で走る銀八。細部まで詳細に覚えている。
 土方は気が付くと、銀時の隣に立っていた。二人で桜の木を見上げている。裏銀小灰蝶が二人を包むようにして舞っている。春のまどろみの中、銀八の手が土方の頬に触れ――――
「おい」その声で、世界がぱちんと音を立てて崩れた。振り返ると、数学教諭が立っている。「安岡は知らないか、追試に来ないんだ」
「さあ」
 と土方は首を振る。
「そうか」
 小声で文句を言いながら、数学教諭は出て行った。
 再び、窓の外を見たが、あの心地よい空間にはどう頑張っても行けそうになかった。
 その日の夜、幼馴染の近藤から電話がかかってきた。ベッドに横になりながらコードいっぱいに伸ばして土方は近藤の声を聞いた。
――――どうだ、そっちは
「春休みに帰ったばっかだろ。なんも変わりはねぇよ」
――――うん、そうだよな……
「なんだよ、近藤さん。どうかしたか」
――――あのなぁ………
 どうも近藤の歯切れが悪い。土方は体を起き上がらせて座る。受話器の向こう側に耳を傾けた。言い淀む近藤の言葉を辛抱強く待った。
――――こういうの、トシがあんまり好きじゃないってのは知ってるんだが、こっちになトシのことが好きだっていう女の子がいるんだ。トシ、お前、そっちに彼女とかいないんだろ? すごくいい娘なんだ。どうだろう。手紙のやり取りがしたいって話なんだ。年齢はいっこ下でよ……
「近藤さん」何故だか分からないが土方は勢い込んだいた。「近藤さん、ごめん。俺、ダメだ」
 土方の勢いに飲まれたかたちで近藤は、
――――トシ、どうした?
 と心配気に訊いてきた。一瞬、惑った。今まで、誰にも口にしたことがなかった。だが、どうしてか土方は近藤に聞いて欲しくて仕方がなくなった。
「俺、好きな奴がいる」
 電話の向こうで盛大に近藤が噎せた。受話器を持つ手がしっとりと湿っていた。
――――いや、ごめんな、なんか、突然で驚いた。そっか。トシが、そっか。相手、どんな子なんだ
 抵抗はあった。少し、怖かった。だが、近藤との距離が遠く離れていることが土方を後押しした。近藤は銀八を知っている。それでも、話してしまおうと決めれば、すっと言葉が流れた。言ってしまえば不思議と気持ちが軽くなった。言葉にした恋は胸に馴染んできて、より一層、自分のものになった気がした。話を聞いてくれた近藤は驚いたものの、軽蔑はしなかった。ただ、うんうん、そうかそうかと最後まで聞いてくれた。
 翌日の放課後、とうとう、我慢が出来なくなった。廊下ですれ違いざまに銀八の口唇を浚った。三秒にも満たない拙い口付けだった。銀八は驚かなかった。土方は気が付くと、銀八の前から走って逃げていた。
 その夜、近藤に電話をしたが、留守だった。

 三年間はあっという間だった。
 高校生活が終了したその日、心が張り裂けそうでしかたなく、あちこちに寄り道をしてからアパートに帰ってきた。間口の狭い玄関で、扉に寄りかかり溜息を吐く。銀八とはあの接吻事件以来、ほとんど話せなくなってしまっていた。授業中に指されたり、生徒と教師の事務的なやり取りの範疇が、あの春以来の銀八と土方の会話の全てだった。あの後、いつもの曜日に銭湯にも行ったが、銀八はとうとう現れなかった。避けられたのだと思うと、胸を抉られる思いだった。
 鞄を放り出し、ズルズルと膝から折れて前髪を握る。終わってしまった。三年間があっという間に。銀八と、もう、接点がなくなってしまう。でも、どうすればいいのか分からない。無駄に高いプライドが邪魔をするし、どうあがいても、結果は見えている。銀八はあの後、ちっとも変わらなかった。土方に対して負い目もなにも感じていないように見えた。もともと、空気のように掴みどころのない男だった。だからこそ、少しの期待も感じていた。
 水面に顔を出すように息を吸う。去年の十月にはあの銭湯も潰れてしまった。そして、土方はもう卒業しいないが、新学期に入れば銀八は異動になる。何もなくなってしまう。
 その時、電話が鳴った。土方はのろのろと移動し、受話器を取りベッドに横になる。とても誰かと話したい気分にはなれなかった。
――――十四郎?
 母親だった。
「何」
――――今日、行けなくてごめんなさいね。おじいちゃんが具合悪くって
「聞いてたから、大丈夫だって」
――――いつこっちに帰ってくる?
「明後日には帰るよ」
 大学も当初の目的通り東京に決めたが、銀八の居ない東京に意味が持てなくなってきていた。思えば、銀八だけを見続けた三年間だったのだ。大好きな剣道も止めて、一人暮らしをして。
 ここから逃げてしまいたい、という気持ちもある。だが、無理をして実家から出てきたのだ。今更、帰れない。
 母親は饒舌だった。卒業式に来れなかったことに負い目を感じているのだ。なかなか話は途切れなかった。明後日には帰省するのに。気が付けば四十分も会話をしていた。
 電話を置いた直後、また鳴った。うんざりした気持ちで取ると、近藤だった。
――――トシ!!
 開口一番名前を勢いよく名を呼ばれ、面食らった。
「どうした、近藤さん?」
――――お前、見たのか? なんで行かないんだ?
 唐突だった。何のことだかさっぱり分からずに訊くと、
――――成績表開けろ! 今すぐ! そんで銀八のとこに行け! それから、ごめんなっ
 訳がわからない。だが、近藤に急きたてられるまま、鞄に押し込んだ成績表を取り出すと、一枚のメモ用紙が挟まっていた。手に取ると、見慣れた筆跡だ。すぐにわかる。何度も指でなぞったことがある、銀八の字だ。『十五時、銭湯があった場所で待つ 銀八』時計を見る。既に針は十八時をまわっている。土方は顔色を変え、直ぐに家を飛び出した。
 自転車を必死に漕ぎながら考える。三月は春だろうか。芽吹きの季節だが、まだ肌寒い。あの暖かな陽脚には少し遠い。でも、鼓動を感じる。少しずつ移ろう季節の足音を確かに感じる。
 閉じてしまった銭湯の前に銀八はいなかった。辺りを見回すが、どこにも姿がみえない。遅かったかと落胆はするものの、銀八のアパートを知っている。訪ねてもいいだろうか。銀八に会って、その先に何が待っているかは分からない。だが、土方は銀八がどうしようもないぐらい好きなのだ。自転車を元銭湯の脇に停める。鍵をかけて往来に振り向くと、突然、影がかかった。土方は咄嗟に一歩後ずさる。銀八が眼の前にいた。いつもの眼鏡を掛けていない。そうすると、だいぶ若く見える。学校以外で、この銭湯で、よく見た土方にとって特別な顔だった。きゅっと心臓が竦んだ。
 銀八は苦笑していた。土方は口を開きかけるが、何も言葉が浮かばない。ゆっくりと、銀八の手が土方の頭に降りた。
「相変わらず、春疾風みたいだな」
 途端、土方は満面朱を注ぐ。恨めしい気持ちになった。
「覚えてたんですか」
 後頭部を引き寄せられて、気が付くと銀八の腕の中にいた。
「あの日、お前にキスされた日な。近藤が来た」
「………近藤さんが………?」
「近藤もお前も、あんなちっこかったからな、忘れてた。怒るなよ。近藤がな、お前を傷つけないでくれって。卒業まで、お前を大事にしろって、俺に詰め寄ってきた。お前の事、全部聞いた」
 土方は呆然と、ただ、銀八の言葉を聞いていた。
「だから、卒業までお前を大事に見守った。もういいだろ、俺のものになっても」
 土方は銀八の腕の中で、そっと目を閉じる。

 春の温度だ――――土方は夢見心地の気分で思う。これはきっと、春の温度なんだ。
 銀八の身体から発する熱が伝染し、ゆっくり揺さぶられる。何度もキスをして、身体を触られて、触って、奥深いところを穿たれて、どこもかしこも浮ついている。まじまじと近くで顔をのぞけば、三年分、合計すると十二年分の春が積もっていた。あんまりにも濃厚で眩暈がする。一つの布団で裸で抱き合っているという実感。想像していた以上のエッチをしている体感。身体を舐められれば反応し、奥を探られれば喘いでしまう。信じられない気持も大きいのに、それにも況して、まるでパズルのピースが嵌ったような、あるべきところに収まった感もある。
「先生、もっと」
 若い身体は快感を悦んだ。人肌は暖かい。これまでの人生、寂しかったわけじゃない。けれど、こうやって銀八と身体を重ねると、今までの日常がとても寒かったような気がしてくる。すごく不思議な感覚だった。
 ペニスを見られるのも、尻の奥を触られるのも恥ずかしいはずなのに、身体はどんどん淫らになる。請われれば、どんな姿勢をもとってしまう自分がいる。肌が紅潮する。銀八の肌もだ。色素が薄いから、桃色に染まっている。
 気が付けば、裏銀小灰蝶が二人の周囲を舞っていた。部屋には堂々とした桜の木があって、枝から花弁を降らせている。春の陽脚が降り注いで、地面は草原だった。草原の上の布団で、恥ずかしい事をしている。銀八の肩に蝶が一羽とまる。土方の揺さぶられて宙に浮いている脚にも。その、つま先にも。春の木漏れ日の中で銀八とセックスしている。下半身も胸もドロドロに溶かされ、愛されたところは、甘い蜜になっているのかもしれない。だから蝶が寄ってくるのだ。
「土方」
 と、声を掛けられる。目を開けると、今まで目の前にあった筈の春はどこにもなかった。そこは銀八の部屋だった。布団の中で銀八と抱き合っていた。土方は周囲を見回して、瞬きをする。
「先生、俺の中に春があるみたい」
 嗄れた声で言うと、銀八は苦笑して、土方の額に一つ花弁を添えた。