山車や屋台の上で囃される祭囃子。
 喧騒を縫って、人込みをかき分ける。蹴られて踏んではぶつかって、高揚しているからか気づかずに浮かれて踊る男と女。宵は深い。提灯の明かりがゆらゆら揺れる。今夜は暗月の暗月祭。農耕民の祭りは無礼講で、別名を夜這い祭りと呼ぶ。
 人の熱気が秋の空気と鬩ぎ合う。しなやかに艶かしく天に伸びる人々の腕が、夜空に浮かぶ。足元には橙の灯りが影を作っているが、影は幾人も重なりあい、土の路が塗り潰されている。
 土方十四郎は編み笠を深く被り、決して顔を見せずに山車の隙間から路を逸れた。明るい路とは打って変って、眼の前は暗く広がる雑木林。入口に手燭売りがいて、土方は二十文を出し購入した。火をもらい、雑木林に脚を進めようとしたその時、突然手首を引かれた。振り返ると色鮮やかな端縫いの着物を纏った娘だった。引かれた手を、女は己の胸へと押し当てる。手の平に柔らかな感触を感じ、土方は慌てて手を引いた。振り払われた女は媚びるような笑顔をさっと引っ込め舌打ちし、瞬きの間に人込みに紛れてみえなくなった。土方は殊更身を引き締めて、雑木林に這入っていく。進むうち、前後左右の至る方向から妖艶な嬌声が漏れ聞こえる。魔界に入り込んだような妙な心地になるが、歩を緩めずぐいぐい進んだ。
 腹に響く太鼓の音が、土方の鼓動を速めた。篠笛の音色が間遠になっていく。
 土方は暫らく歩くと、やがて栗の大木の前で立ち止まり、自らの装いを確かめた。新調したばかりの江戸小紋角通しの着物をきりりと角帯で締め直して、江戸小紋万筋羽織を羽織り直す。人の波にもみくちゃにされたが、たいした乱れはなかった。
 落ち着け、と息を整える。
 雑踏の熱気から抜け、秋らしい風が林の隙間から流れてくる。手燭の微茫な火炎を吹き消すと、静寂と暗闇に支配された。
 少しだけ、不安が擡げる。土方は手のひらで目の前の大木に触れた。栗の木は土方の膝のあたりで幹分かれしていて、縦模様。若い木肌の触覚は桜の木によく似ている。毎年、暗月祭にはここに来る。ここに来て―――――――――――
 背後で、土を踏みしめる音がした。土方は手のひらが湿り気を増すのを感じている。足音は迷いなく近づいてくる。安堵しているのか、一抹の不安なのか。土方は気づかれないよう、胸溜まった息を吐く。
 すぐ真後ろで足音はぴたりと止まった。ふっと吹き消す音がした。
 背後から腕が回ってくる。胸のあたりで、相手の手が交差する。抱きしめられていた。胸の鼓動が早鐘を打つ。落ち着け、落ち着け、と願うのに、どうしても収まらない。抱きしめられているだけだ。それなのに、これからの事を想像してしまい、下半身に熱が集まり出す。
 腕が解かれ、背中の温かみが消えた。羽織を脱がされて、土方は俯く。身体の芯から高揚が渦巻く。受身でいるのは癪だが、こうでもしなければ、相手と交わることはできないのだ。
 羽織が地面にパサっ音を立てて落ちた。続いて、帯が解かれ、着物の前が肌蹴た。熱が点りだした肌に、爽やかな夜風が心地いい。下帯は結んでこなかった。土方は栗の木に無防備な裸体を晒した。
 背後から、男の手が伸びてくる。両胸を弄られ、擽ったさに身を捩った。だが、それだけだった。振り払いはしない。振り向き、男の顔を見ることは土方の中で許されないことだったし、暗闇の中、栗の木から手を離してしまえば、それこそ、支えは背後の男しかいなくなる。闇の中の無言劇は妙味だが、相手の好きにさせるのは些か悔しい。
 両胸を弄られる。最初は擽ったいだけだったが、次第に、疼くような快感が背中を走り出す。もう既に、性器は半分顔を擡げている。男は一度、胸から手を離すと、土方の被っていた編み笠を取った。編笠の下は、狐の面だ。興趣の意味を込めたが、男は果たして気がつくだろうか。この暗闇だから、見えないかもしれない。探るような男の手が、面に触れた。荒々しく剥ぎ取られ、土方は口元に笑みを浮かべる。
 着物を肩から落とされ、全裸になった。背中に唇が降ってくる。項を喰まれると、甘い喜悦が性感帯を刺激する。熱い息が漏れる。再び片方の胸を弄られ、もう片手は、全身を舐めるように撫でられる。鎖骨、脇腹、大腿。滑るように。三所攻めには弱い。土方の性器は完全に勃起し、窪みからは蓋をするように精液が浮かんでいた。
 祭囃子は遠くに霞む。暗闇の愛撫は、想像力を肥大させる。
 脇の下を擽られ、舐められ、舌が、背骨を流れる。目元が潤み、快感に弱る。気持ちの良さと、男に愛撫させているのが自分だと思うと、より一層だった。
 やがて、待ち望んでいた性器に男が手を触れる。手のひらは暖かかった。後ろから回される手が、幹を掴み擦り、袋玉を揉む。土方は目を閉じる。性器をしっかりと握り皮ごと上下に扱かれて、その手淫の絶妙さに溜息が溢れる。器用な男だと、熟々思う。玉袋は少し乱暴に扱われる。その方が、土方が快感を得るのだと識っているのだ。
―――――――――――あぁ、熱い
 腰が自然に動く。世間体も矜持も何もかも脱ぎ去っていた。
 前屈みになる。足が僅かに震えた。性器は男の手によって天高く導かれる。血管がドクドクと脈打ち、玉袋が頑固ってくる。性器も鼓動を打つのだ。性欲、それだけじゃない。背後の後ろの男に感じるのは、決してそれだけじゃない。だが、それ以上は許されない。手放していいのは性欲を抑える箍だけだ。
 高みに昂る寸前で、手が離れた。辛い、辛いが、ぐっと我慢する。性器は不満げに揺れている。ねっとりしたものが、尻の穴に塗られた。尻の穴の周囲、おそらく、皺、その部分を伸ばすように広げられる。やがて、くんっと穴に指が当てられた。潤滑油だろうか、それが、穴の上からだらだらと垂らされている。
 当てられている指が、潤滑油を伴って這入ってくる。それは、男が力を入れているのではない。土方の穴が徐々に引き込んでいるのだ。排泄の器官の筈なのに、招いている。不思議な感覚だった。
 少し飲み込んだところで、招きが終わった。今度は男がぐっと土方の中に入ろうとする。土方は、気持がよくなることを知っていた。足を少し開いて、尻の力を抜く。栗の木の幹分かれしているところに、上半身を倒した。恥じらいはある。だが、今宵だけだ。一年に一度、今宵だけなのだ。
 男の指が土方の中にぐんぐんと這入ってくる。ある程度収まると、今度は出し入れを繰り返す。擦られている入口と、奥の箇所に疼くような熱がこもる。口唇を噛み締めていても、どうしてか矯正が漏れている。
 性器は大きく成長し、腰が揺れるたびに、栗の幹に触れる。
―――――――――――あぁ、きもちいい
 頭が快感で一色になる。男の手によって粘膜が引き摺られる感覚が何とも云えない。
 性器も握られ、扱かれる。
 息が荒く、乱れる。
 肌がもっと密着すればいい、全身が性感帯ならいい。どうして、尻の穴と性器だけしか触れられないのだろう。もっと、全身を、もっともっと、触れ合えればいい。―――――――――――でも、きもちいい。このまま、ずっとこうしていて欲しい
 土方は乱れていた。普段のこの男からは想像できないほどに、身体を捩って乱れていた。口の端からは涎が溢れ、目元は赧く潤んでいる。暗闇に痴態を晒し、男に全てを委ねていた。
 男の息が項に当たり、震える躰は艷いていた。
―――――――――――熱い、熱い、熱い
 躰が強張り、痙攣する。足元から崩れ落ちるような大きな快感の渦が押し寄せ、土方は逐情していた。逐情は後を引いた。白濁は、栗の木に飛び散り、膝が折れる。背後の男は土方の腹を手で支え、指を出し入れしていたところに、もっと太く熱い熱を押し付けた。一瞬、土方は息を呑む。ひと呼吸の後、それは押し込まれた。
「うぁ、っく」
 衝撃はあった。だが、どうしてか、ちっとも痛くないのだ。性器も萎えないのだ。逐情したのに、益々上を向き、快感は躰中を貪るように荒れ狂う。口からはひっきりなしに意味をなさない喘ぎが漏れ、止まらない。
 打ちこまれる。引き攣れる。
―――――――――――も、熱い。
 押し込まれ、引き、また押し込まれる。時には小波、時には荒波のように。侵食される。だが、それが心地よかった。穿たれるたびに、躰が前後する。目の奥が熱く、気が付けば、涙腺が緩んでいた。
 汗が飛ぶ。もう、どちらのものだか分からない。濁流に飲み込まれる。それでもいい。だらだらと内腿を伝い精液が垂れている。
 名前を呼びたい。男の名前を、口が動く、その名を象る。だが、声にはならない。声になるのは意味をなさない嬌声だけだ。
 朦朧とする闇の中、何もわからずに、ゆっくりと、堕ちていく。支えられ、穿たれ、強くされ、柔和くされ。
―――――――――――も、堕ちる
 その瀬戸際で、男が土方の中に逐情した。注がれる熱に躰が痙攣を起こす。
 土方はほとんど男に支えられ、かろうじて両足で立っていた。栗の木からは少し離れたところにいることすら、気がつかず、熱に浮ついた瞳を瞬かせていた。
 男は土方を支え、自分の吐き出したものを掻き出すと、手ぬぐいでそれいらを拭う。秋の風が、二人の湿気を孕んでいた。土方は着物を直されていることにも、ゆっくりと身体を下ろされていることにも気がつかなかった。事後の痺れに、夢現のような心地だった。
 男は、土方から離れた。
 その足音が、何も見えない暗闇に遠ざかっている。
―――――――――――寒い
 ほとんど失神している土方はそれけが妙に寂しい。
 何かをつかもうと、緩慢と腕を伸ばすのだが、掴めるものは何もなかった。
―――――――――――寒い
 体温も暖かい吐息もなにもかも消えてしまった。暗闇の中に溶けてしまった。奥底に少しだけある残熱が心もとなかった。
「銀時」
 その面影は、最早どこにも無かった。
 祭囃子はどうしてか、か細く、土方は己の身体を腕で抱いた。